中小会社のための会社法備忘録
企業法務弁護士ブログ~法律の本にあまり載ってない実務上の問題を気の赴くままに・・
増資

「株主割当」による増資の場合に総数引受契約を利用することはできますか?

答:明確ではありませんが、できないおそれがあるため、総数引受契約を利用する場合は「第三者割当」による増資の手続きによるべきと考えます。

解説

会社法205条1項の総数引受契約は、申込に関する会社法203条と割当に関する会社法204条を適用しない例外として定められています。

この点、「株主割当」については申込に関する会社法203条は適用されますが、株主が申込をすると(株主割当を受ける権利の行使として)自動的に株式が割り当てられるため、割当に関する会社法204条は適用されません。

従って、会社法203条と204条の2条の例外として定められている会社法205条1項の総数引受契約は、「株主割当」に適用されず、「第三者割当」のみに適用されるようにも思われます。

ただ、割当に関する会社法204条はその4項において、「株主割当」の場合の株式割当を受ける権利の失権について定められており、会社法205条1項の総数引受契約は、株主割当の場合は申込に関する会社法203条と株主割当を受ける権利の失権に関する会社法204条4項を適用しない例外と読むこともできます。

また、実質上も、「株主割当」において株式を引き受けようとする株主と会社が会社法203条の申込の手続きをせず、会社法205条1項の総数引受契約の締結をすることを禁止する理由もありません。

従って、「株主割当」にも総数引受契約を認めても不合理ではないようにも思われます。

しかし、

  • これを認める解釈が確立されているとは言い難いこと
  • これを認めても、会社法202条4項の通知の省略は認められないこと
  • 既存株主による増資引受の場合にも「第三者割当」の方法によることは、実務上も登記上も認められていること

から実務上は総数引受契約を利用する場合は「第三者割当」による増資の手続きによるべきと考えます。