答:実施できると考えられます。
解説
「株主割当」は、既存の株主全員に持株数に応じた「株式の割当を受ける権利」を与え、その権利を行使した株主が株式の引受人となって行う増資のことを言います。
一方、「第三者割当」は、発行会社と関係のある特定の者に株式を割り当てて行う増資のことを言いますが、「株主割当」によらない増資はすべからく「第三者割当」による増資となります。
そのため、例えば、既存の株主全員に持株数に「応じない」株式を割り当てる増資も「第三者割当」になります。
では、既存の株主全員に持株数に応じて株式を割り当てる増資を行う場合に、「株主割当」によらず、「第三者割当」の方式による増資を実施することはできるでしょうか?
「株主割当」は、既存株主に持株数に応じた「株式の割当を受ける権利」を与える手続きを行う必要があるため、「第三者割当」と比べて会社法202条4項の通知が必要となるほか、「第三者割当」におけるように総数引受契約を利用して1日で増資手続きを完結できるかも明確ではありません。
そこで、既存の株主全員に持株数に応じて株式を割り当てる増資を行う場合であっても、「株主割当」によらず、「第三者割当」の方式に基づきより簡便に増資を実施できないかが問題となります。
この点、既存の株主全員に持株数に応じて株式を割り当てる以上「株主割当」による必要があるようにも思えますが、「株主割当」に関する会社法202条1項は、株主に株式の割当を受ける権利を「与えることができる」と定めており、「株主割当」によるかどうかは会社の義務ではないと考えられます。
実質的にも、「第三者割当」の方式において、その手続きに則って、既存株主を引受人として会社が株式を割り当てる(会社法204条1項)又は総数引受契約を締結する(会社法205条1項)ことは何ら禁止されていないと考えられます。
そこで、既存の株主全員に持株数に応じて株式を割り当てる増資を行う場合であっても、「株主割当」によらず、「第三者割当」の方式による増資を実施することはできると考えられます。
実務上も既存の株主に対して「第三者割当」の方式によって増資を実施することは一般的に行われており、登記上も問題とはされていません。