答:できます。ただし、疑義なく1日で取締役会書面決議を成立させることは実務上必ずしも容易なことではありません。
解説
取締役会書面決議は、取締役会の決議事項について、取締役が提案し、当該提案について取締役の全員が書面又は電磁的記録により同意した場合に成立します(会社法370条)。
従って、上記の取締役による提案と取締役全員による同意が同じ日に完了すれば1日で取締役会書面決議を成立させることができます。
しかし、いくつか実務上の留意点もあります。
まず、同意の効力が生じるには、同意の書面又は電磁的記録が提案者に到達する必要があることです。そのため、取締役全員の同意の書面又は電磁的記録が提案者に到達してはじめて、取締役会書面決議が成立します。そして、書面にて同意する場合には、その「原本」が提案者に到達している必要があると考えられます。
従って、取締役が同意書面に署名又は記名押印し、そのPDFをメールで送信し、提案者がこれを受信したとしても、「原本」が到達していない以上同意の効力が発生していないとみられるおそれがあります。
この点、同意書面のPDFを提案書が受信すれば、「電磁的記録」が提案者に到達している以上、効力が発生すると考えることもできなくはありませんが、PDFは紙の原本の「写し」であるとして、それのみでは足りないとみなされる可能性は否定できません。
そこで、取締役会書面決議の成立に疑義が生じないようにするには、取締役全員の同意書面の「原本」が書面決議を成立させたい日までに到達するように確保することが実務上適切です。特に重要な決議や紛争局面では注意する必要があります。
なお、紙の同意書面のPDFではなく、「電磁的記録」をもって同意することとし、それをメールで提案者に送信することも考えられますが、この場合は取締役が同意した「電磁的記録」そのものが提案者に到達するとみられるよう、カバーメールに同意文を記載するのではなく、電子ファイルに電子署名を付したものを添付ファイルとして送信することが望まれます。
次に、提案については特段書面によることは求められていませんが、提案に対して同意が行われることになるため、提案内容(決議事項)を明確にするとともに、提案を受けて同意をしたという先後関係が明確になるよう、提案書に同意書を添付する等の形で提案も各取締役に書面として送付(又はそのPDFをメール)することが適切です。
最後に、監査役設置会社においては、監査役が当該提案に異議を述べたときは、書面決議によることができなくなるため、監査役より異議を述べない旨の確認書も合わせて取得することが実務上は適切です。
以上を踏まえると、疑義なく1日で取締役会書面決議を成立させることは実務上必ずしも容易なことではありませんので、取締役(及び監査役)が全員社内にいる等の場合以外は、日程に余裕をもって実施することが望ましいと考えます。